大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(特わ)1841号 判決

本店所在地

東京都板橋区志村三丁目一六番一号

株式会社大福商事

(右代表者代表取締役 小川唯一)

本籍

茨城県筑波郡谷田部町大字羽成一五番地の二

住居

同町大字羽成一五番地の一

会社役員

小川唯一

昭和二五年五月二日生

右の者らに対する各法人税法違反、貸金業の規制等に関する法律違反被告事件につき、当裁判所は、検察官宍戸充出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人株式会社大福商事を罰金一六〇〇万円に、被告人小川唯一を懲役一年に処する。

二  被告人小川唯一に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社大福商事(以下「被告会社」という。)は、東京都板橋区志村三丁目一六番一号(実質上、昭和五九年一二月以前は、東京都豊島区巣鴨一丁目一七番一号サマリヤマンション六〇一号室及び同六〇二号、同五七年一〇月以前は、東京都板橋区相生町八番地の二ハイツ相生四〇二号室)に本店を置いて、貸金業を営む資本金一〇〇万円の株式会社、被告人小川唯一(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、

第一  被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、借主から返済される貸付金利息を仮名普通預金口座で受け入れ、あるいは利息収入を仮名定期預金口座に預け入れて隠匿するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五六年三月一日から同五七年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一〇五一万八八〇円あった(別紙(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、右法人税の納期限である同五七年四月三〇日までに、東京都板橋区大山東町三五番地一号所在の所轄板橋税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度の法人税額三四五万四二〇〇円(別紙(4)ほ脱税額計算書参照)を免れた

二  昭和五七年三月一日から同五八年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五八八七万九七六七円あった(別紙(2)修正損益計算書参照)のにかかわらず、右法人税の納期限である同五八年四月三〇日までに、前記板橋税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、不正の行為により同会社の右事業年度の法人税額二三七六万九一〇〇円(別紙(4)ほ脱税額計算書参照)を免れた

三  昭和五八年三月一日から同五九年二月二九日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六八四五万九三四二円(別紙(3)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、右法人税の納期限である同五九年四月三〇日までに、前記板橋税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度の法人税が二七七九万二七〇〇円(別紙(4)ほ脱税額計算書参照)を免れた

第二  被告人は、被告会社の従業員西村克久及び同渡辺次郎の両名と共謀の上、被告会社の業務に関し、かねて同会社において二〇万円を貸付けるなどしていた其田守也から貸付けの契約に基づく債権の取り立てをするに当たり、右西村及び渡辺において、昭和五九年二月二三日午前二時過ぎころ、同都北区滝野川三丁目二六番一一号所在の光雲荘一階二号室の右其田方に赴き、同人方雨戸及び玄関ドアを一〇数回にわたって叩き続け、就寝中の同人の妻志津(当時五七歳)を起こした上ドアを開けさせて室内に上がり込み、同日午前四時ころまでの間、右其田方六畳間において、夜具の上に座り込みながら寝巻姿の右志津に対し、「お茶を沸かせ。」「ストーブをつけろ。」「何で金を払わないんだ。」などと大声で申し向け、あるいは、隣室三畳間において、棚の上などを物色した上同女に対し、「何を震えているんだこっちへ来い。」「こっちへ着て六畳のタンスなども全部探せ。」などと語気鋭く申し向け、さらに、その間、サマリヤマンションの本店において待機していた被告人において、電話口に呼び出した右志津からもう少し返済を待って欲しい旨哀願されるや、同女に対し、「何言っているんだ馬鹿、お前みたいな馬鹿は世の中にいないんだぞ、この馬鹿野郎」などと怒号し、もって、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たって、同女を威迫し、かつその私生活の平穏を害するような言動を示して同女を困惑させた

ものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  登記官作成の登記簿謄本

判示第一の各事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六一年七月四日付、同月二三日付(二通)及び同年八月六日付各供述調書

一  吉村よ志の検察官に対する供述調書

一  山崎忠夫の収税官吏に対する質問てん末書

一  収税官吏作成の各調査書

1  利息収入調査書

2  預金利息調査書

3  受取配当金調査書

4  役員報酬調査書

5  給料調査書

6  租税公課調査書

7  福利厚生費調査書

8  賃借料調査書

9  通信費調査書

10  水道光熱費調査書

11  保険料調査書

12  修繕費調査書

13  出張交通費調査書

14  燃料費調査書

15  雑費調査書

16  貸倒損失調査書

17  雑損失調査書

18  固定資産売却損調査書

19  事業税認定損調査書

一  板橋税務署長作成の「法人税の納付状況照会に対する回答」と題する書面

一  収税官吏作成の検査てん末書八通

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年一月一〇日付供述調書

一  被告人の司法警察員に対する供述調書三通

一  其田志津、其田守也、渡辺次郎(二通)及び西村克久の検察官に対する各供述調書謄本

一  司法警察員作成の恐喝被疑事件捜査報告書二通(うち一通は謄本)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし三の各事実につき、方時税法一六四条一項、一五九条一項、判示第二の事実につき、貸金業の規制等に関する法律五一条一項、四八条三号、二一条一項

2  被告人

判示第一の一ないし三の各所為につき、法人税法一五九条一項、判示第二の所為につき、刑法六〇条、貸金業の規制等に関する法律五一条一項、四八条三号、二一条一項

二  刑種の選択

被告人

判示第一の一ないし三及び同第二の各罪につき、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(刑及び犯情の最も重い判示第一の三の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、被告人において、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、判示第一の方法で被告会社の所得を秘匿した上、いずれも法定納期限までに確定申告書を提出しないで、昭和五七年二月期から同五九年二月期までの三事業年度分の法人税をほ脱し(判示第一の各事実)、また、被告人において、被告会社の従業員と共謀の上、被告会社の貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たり、債務者の家族を威迫し、かつその私生活の平穏を害するような言動により同人を困惑させた(判示第二の事実)というものである。

本件のほ脱税額は、合計五五〇〇万円余と多額であるが、被告人は、被告会社を設立した昭和五三年五月ころから、それまで露店商等をして蓄えた約二〇〇〇万円の自己資金を元手に貸金業を開始、同五五年ころからは利益が出ていたにもかかわらず、将来の事業のための資金を蓄積する意図の下に、所轄税務署係官からの問い合わせに対しては、休業中であり近いうちに営業を開始する旨の虚偽の応答を繰り返し、他方では、判示のとおりの方法で所得を秘匿した上、法定納期限までに確定申告書を提出しないで脱税を続けてきたものであって、法人税法違反の事実に限ってみても犯情は悪質である。しかも、判示第二の事実は、被告会社の従業員らによって日常的に行われていた厳しい債権取立ての一環と認められるが、被告人は、従業員に対し、利息などを回収するため客のところへ行ったら中途半端な取立てはするななどと厳しく指導していたものであって、被告人自身、本件以外にも債権取立てに関し、昭和五九年五月一四日には暴行罪で逮捕され、罰金刑に処せられている(その他、前記以外にも傷害、暴行などにより罰金刑に処せられた前科四犯を有する。)など、この点においても犯情は悪質であると言わざるを得ない。

しかし、仮名定期預金などとして隠匿していた金の大部分は本税の納付に充てられて、本税はすべて納付されており、未納となっている重加算税、延滞税などについては、返済される利息収入などで分割納付する予定であると認められ、被告人も履行を誓っていること、ほ脱した金のほとんどは新規貸付金の元金に充当されるか仮名定期預金などとして隠匿されていたものであるが、貸付金の相当部分が貸倒となり、被告会社も貸金業者の登録申請を取下げて廃業状態となっているなどその点において再犯のおそれは少ないと考えられること、法人税ほ脱の手段としては単純であり、特に巧妙とまでは言えないこと、被告人は事実を認め、もう一度立ち返って真面目に働くことを誓っており反省していると認められることなど斟酌すべき事情も認められるので、これらを総合考慮し、被告人については刑の執行を猶予することとして主文とおり量刑したものである。

(求刑被告会社につき、罰金一八〇〇万円、被告人につき懲役一年)

よって、主文のとおり判決する。

(弁護人 安田道夫)

(裁判官 石山容示)

別紙(1)

修正損益計算書

株式会社 大福商事

自 昭和56年3月1日

至 昭和57年2月28日

〈省略〉

別紙(2)

修正損益計算書

株式会社 大福商事

自 昭和57年3月1日

至 昭和58年2月28日

〈省略〉

別紙(3)

修正損益計算書

株式会社 大福商事

自 昭和58年3月1日

至 昭和59年2月29日

〈省略〉

別紙(4) ほ脱税額計算書

〈1〉 自 昭和56年3月1日

至 昭和57年2月28日

株式会社 大福商事

〈省略〉

〈2〉 自 昭和57年3月1日

至 昭和58年2月28日

〈省略〉

〈3〉 自 昭和58年3月1日

至 昭和59年2月29日

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例